●ApplePayがもたらす変革

 Appleが提供している、iPhone、Apple Watchに対応した決済サービスがApple Payである。
 Apple Payは、クレジットカードの情報を暗号化し、事前にiPhone、Apple Watchに保存して、小売店の店舗に用意されたApple Pay用のレジセンサー端末にかざして利用する。この際、支払いに使うクレジットカード情報は端末に暗号化されて記録され、その取引のみに有効な支払い専用の動的セキュリティコードと端末アカウント番号だけを送信する仕組みになっている。
 このため、ユーザーのクレジット番号が店舗側に伝わることがないのが特徴で、セキュリティ性は高い。利用時にはiPhone、iPad、Apple Watchで触れるだけで決済できる。つまり、特定のアプリを起動したりする必要はない。

 Apple Payは、米国を初めとした海外ではNFC(Near Field Communication:近距離無線通信)を採用している。しかし、日本ではFeliCaを使ったタッチ決済が主流だったため、Appleは日本国内で本格的にサービスを開始するにあたって、FeliCa方式を特別にサポートすることにした。そのおかげで日本国内でも、2016年10月のスタート当初から、既存のインフラを活かした利便性の高いサービスを実現することが出来ている。

 2014年10月からサービスがスタートし、すでに安全性が証明されている米国では、小売店での決済以外にも、Bank of America(バンク・オブ・アメリカ)をはじめ、750の銀行と信用組合が、Apple Payに対応したATMの導入が発表されている。これにより、Apple Payによる決済での現金引き出しが、全米約7万台のATMで可能になる。

mobile payment
Photo by HLundgaard [CC BY 3.0], via Wikimedia Commons(2012)

 一方、サムスン電子がモバイル決済サービスのSamsung Payをスタートさせたのは2015年8月。本国の韓国で8月20日、翌9月28日には米国でも開始。2016年2月には中国でモニタリングを始め、翌3月9日に中国全土に本格サービスを拡大した。Apple Payより約10カ月遅れてスタートを切ったが、その後は破竹の勢いで商圏を広げている。
 Apple Payと同様、ユーザーが自身のクレジットカード、デビットカード、プリペイドカードを登録して使用し、EMVCo型トークナイゼーション(Token-ization:トークン<代用券>化)で、決済時に指紋認証もするカード登録型モバイルウォレットだ。
 NFC決済だけでなくMST(magnetic secure transmission=磁気ストリップ保護送信)とバーコード方式に対応するのが特徴。MSTは、韓国と米国で適用されるが、既存のクレジットカード端末でモバイル決済ができ、決済時に臨時の番号を使うため、取引情報が端末に残らない。磁気送信技術を利用して、これまで使用していたクレジットカードリーダーも使用できる。これにより、非接触EMV非対応の店舗端末でも、非接触決済が可能になっている

●世界200社以上の主要銀行・カード会社と提携するSamsung Pay

 すでに、サムスン電子はSamsung Payに関係して、全世界で200社以上の主要な銀行、カード会社とパートナーシップを締結している。その中には、Chase Bank 、Bank of America、Citibank 、USU.S. Bank、AmericanExpress、UnionPay(中国銀聯)、 MasterCard、Visaが含まれている。
 2016年5月には中国の電子商取引最大手のアリババ集団(阿里巴巴集団)と提携しており、Apple Payを牽制している。これにより、4億5000万人が利用しているアリババの決済サービス「アリペイ(支付宝)」を利用できるようになった。

 Apple Payに攻勢をかけているSamsung Payだが、大きな弱点がある。それは、米国においてモバイルショッピングが主力端末はiPhone、iPadなどiOS端末で、2015年の年末商戦では全体の77%がiOS端末からのものだったということだ。Samsung Payによる決済は全体の20%未満になっている。

 これまでSamsung Payはサムスン電子の端末に限られていたことから、これを打開する方針を決めた。その方策の1つとして、2016年6月から韓国を皮切りにオンライン決済システムとして、SamsungPay Miniをスタートさせた。これは、他社のAndroid端末だけでなくiPhoneでも利用でき、すべてのスマートフォンで使用できるように設計されている。アプリケーションベースで、クレジットカードやデビットカードを登録すると、オンラインでの決済が可能となる。ただし、Samsung Payで採用されているMSTには対応せず、当面は韓国国内のみでの展開にとどまる予定だ。

 Apple PayとSumusungPay以外にも、モバイル決済サービスには、Square、PayPal Here、Android Pay、Google Wallet、NCR Silver、GoPago、Level Up、Softcard(ISIS)などがある。それぞれ特徴があって使い勝手も違う。成長する巨大市場をめぐる競争はなお激しさを増している。

(清水メディア戦略研究所 清水計宏)