●自動車業界地図が塗り替えられる?

 IoT(Internet of Things)が一定の発達を迎えたことで、ディープラーニング(深層学習)やコグニティブ・コンピューティングを含むAIの開発スピードに拍車がかかっている。おそらく、2020年代前半ごろには本格的なAI時代が到来することになるだろう。AIは音声・画像認識やゲーム(チェス、将棋、囲碁)といったことから始まった。すでに軍事・軍用、航空、医療・医薬、金融・証券取引、EC、ロボティクス、自動車の分野で導入が始まっており、今後ありとあらゆる産業・社会分野に及び、その影響を受けないところはなくなるだろう。
 その中でも、世界中で特に競争が加熱しているのが自動車を取り巻く領域である。とりわけAIは自動運転、自律走行といった“Self-Driving Car”において欠かせない技術となっており、その開発次第では自動車業界の地図が塗り替えられるという予想もある。

 いま、世界では毎日どこかで交通死亡事故が起きている。国内だけで年に4117人(2015年)、世界では約125万人(2013年)に上る。もはや、ドライバーに安全運転を求めるだけでは限界に来ており、死亡事故を着実に減らすということにも自動運転は期待が持たれ、実用化は高い意義を持つ。

 米シンクタンクのランド研究所によれば、米国で発生する年間衝突事故530万件のうち、自動運転により3分の1は削減できると見積もられている。日本政府も、自動運転技術の普及を促しており、2018年をめどに全国の交通事故死を2500人以下にする目標を掲げている。

driving sensor
Photo by Frank Derks [CC BY 2.0], via flickr(2012)
●自動運転のために必要な技術とGoogle

 自動運転車の実現には、ビックデータを解析・推論するAIだけでなく、車載光学カメラ、レーダー、ライダー(レーザー光線を使ったリモートセンシング技術)、ミリ波、超音波、3D地図作成、自動ブレーキ、走行時車間距離維持といったテクノロジーも不可欠になる。ここに来て、自律走行、自動走行、無人走行のクルマの開発競争が本格化した背景には、そうした技術要素が実用レベルに入り、クルマへ統合化できる段階を迎えたからである。

 自動運転技術で先端を走るのは自動車メーカーではない。インターネット企業のGoogleだ。Googleは、一般道まで含めた完全自動運転の走行アルゴリズムを開発しており、2016年4月30日時点で、Googleが保有するSelf-Driving Carのプロトタイプは合計34台に及び、カリフォルニア、テキサス、アリゾナの各州で走行実験を続けている。総走行距離はすでに約240万km以上に及ぶ。それだけでなく、データセンターでは毎日約480km(300万マイル)もの距離を自動運転車がコンピューター上でシミュレーション走行している。仮想走行とは言え、地球120周分と同じ距離を毎日走行していることになる。

ディープラーニングで走行しながらドライビングを学ぶ

 Googleが、自動運転で先頭を走っているのは、AIにおけるディープラーニング技術が他を凌駕しているからだ。Googleでは、検索・広告だけでなく、AIは中核事業となっている。
 ディープラーニングとは、人間の脳神経系にならった情報処理システムである。ニューラルネットワークを多層構造にしてタスクを分担することで、ビックデータを識別・判別しながら自ら学習・改善していくことができる。
 ドライバーの手を借りずにクルマを自動で運転させるためには、走行中に人間がしている認知・認識・判断・操作をコンピューターが代替する必要がある。
 走行は、決まったルートや高速道路といった比較的楽なところばかりでない。世界には、さまざまな道路状態があり、交通の状況だけでなく、天候を含めた周囲の環境も刻々と変化する。もちろん、信号の識別、信号機のない交差点での他のクルマとの発信順判断、人や動物の飛び出しも注意して事故を起こさないようしなければならない。ディープラーニングは、走行しながら継続的にドライビングを学んで習熟度を上げていく。

 Googleは、画像解析、音声認識、自然言語の理解といった分野ですでにディープラーニングを活用している実績がある。刻々生み出されるビックデータにより技術そのものも成長し続け、自動運転の開発に活かされている。

(清水メディア戦略研究所 清水計宏)