●人間の五感に追随・模倣し、欲望を満たすVR・AR

 テクノロジーは、人間が飽くなき欲求・欲望を実現しようとするなかで発達してきた。一方で、テクノロジーは人間の身体を拡張するか、もしくは模倣するかの方向へと進んできている。
 たとえば、ディスプレイの方向性。これは人間の視聴覚と切っても切れない関係にある。人間の視覚にはフレームや枠組みはない。首を回したり、身体をひねれば、上下左右360度どこでも見ることができる。ディスプレイも、この方向に進化・進展してきている。
 VR HMD(head-mounted display)、ARアイウェア(ARグラス)、360度3D映像といったものは、まさに人間の視界への接近である。もちろん、接近しているとはいえ、実際の見え方とは違うし、視覚細胞が成長しきっていない年齢では悪影響も懸念されている。米OculusがVR HMDのOculus Riftについて、視覚の発達期にある13歳未満に使用禁止にしているのはもっともなことと言える

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 人間が現実の自然な視界を追求するなかで、さまざまな要素技術が別の形をとって現れてもきている。フルハイビジョンの解像度(1920×1080ピクセル)の縦横2倍である4K(3840×2160ピクセル)や縦横4倍で120p、22.2chオーディオの8K(7680×4320ピクセル)も、人間の視聴覚への接近として捉えられる。
 ただし、人間がしっかり見ているのは、目の中心窩で光を感受できる、視野の中心から2度程度と言われている。脳の方で補正とエラーチェックをしているため、少ない情報処理でしっかりした視界が確保できるようにしている。もともと、網膜には倒立像が映っているはずであるが、これも補正されている。このことは、IoT、AIの時代においても、エラーチェック、セキュリティといった機能が欠かせないことも示している。

 モノの見え方というのは、視力、光量、距離、被写体によっても変わるが、人間の視野を解像度にすると、5億7600万画素ぐらいある。ただし、人間がきっちりと視覚で捉えているのは中央あたりだけなので、800万画素程度の解像度があればキレイに見えるはずだ。

 すでに、撮影機材やディスプレイは、こうした人間の視覚に追いついてきている。今後、リアリティだけでなく、より自然に見えること、また見えるものから、見たいものを映す方へ傾いていくと見られる。VR・ARは、見たいものを見ることを実現するための一つのツールでもある。

テクノロジーの発展は我々の感性に何を及ぼすのか

 一方、聴覚は騒音・ノイズの中でも人の声や必要な音だけ聞き漏らさないようになっている。耳の可聴域は、11Hzから22049Hzまでと言われているが、実は可聴域を超える周波数成分を持った音でも、人間の生理に影響を及ぼすことが明らかになっている。
 LPレコード時代の音楽録音時に、スタジオで50kHz以上の超高周波を電子的に強調すると、音の味わいが歴然と深まって感動的になるという経験則はレコードエンジニアの間ではよく知られていたことだ。

 

 五感の発達は環境や遺伝によっても異なる。昔から牧畜を糧としてきた民族では、都会人よりはるかに勝れた視力を持っていることが知られているし、映画界には、一般に人間が見ることのできない色の違いを見分けられるゴールデンアイをもつ専門家がいたりする。

 世界のさまざまな地域において、食材や料理は異なり、民族・地域によって、その味わい方や味覚も異なっているように、歴史、生活習慣・慣習、遺伝特性などの差異が、感覚器官、感性の違いにもつながっている。

 それだけに、一概には言えないものの、先進国に暮らす人たちは、テクノロジーを開発し、それを先駆けて導入することで、その影響を直接受けやすくなっていることは確かだ。おそらく、IoTとAI、そしてそれを採用したロボットや自動運転車や自律駆動型システムは、パソコン(PC)とインターネットが引き起こした革新より、大きな変革を巻き起こすことが予想され、人々への影響もまた大きなものになるだろう。

(清水メディア戦略研究所 清水 計宏)