●増加する中国人旅行客と志向の変化

 中国人の旅行者数が年々増加している。ドイツに本拠を置くマーケティングリサーチ会社のGFKによれば、2015年の中国人の海外旅行者数は1億900万人に上り、1億人を突破した。2015年の消費額は2290億ドルになり、旅行者数、消費金額の両面で、世界首位である。
 また、中国国家観光局の調査によると、2015年の中国国内旅行者数は40億人に登る。国内旅行者数、海外旅行者数、国内観光消費、海外観光消費のいずれにおいても世界一の国となっている。
ちなみに、中国人観光客の渡航先の首位は韓国、次いでタイ、香港、日本、台湾の順に多い。2013年までは、近隣で旅費が安く、買い物が楽しめることが優先されていた。だが、2014年以降は買い物だけではなく、歴史や文化的な志向が強まっている。もちろん欧州も人気で、2011年に比べて97%増、北米は151%増、中東においても177%増という伸び率を示している。

 この1年間でAirbnbを利用して訪日したゲストの54%がアジア地域からで、最も多いのが中国で19%を占めている。次いでシンガポールが8%、韓国が7%と並ぶ。

●中国市場を巡る攻防

 Airbnbは2015年に高らかに中国進出を掲げ、15億ドルの調達をした。しかし、1年以上が経過して、中国進出は思うようにはいっていない。そのため、2016年には10億超の人口を誇り、中国に次ぐアジアの大国となったインドに照準を合わせるまでになってしまった。

 実は中国にはすでにAirbnbに競合する中国企業がいくつも存在している。
その代表的なものだけ挙げても、途家網(Tujia.com)、住百家(Zhubaijia)、自在客(Zizaike)、木鳥短租網、小猪短租(Xiaozhu.com)、大魚(Fishtrip)といった主要サイトがある。

 中国企業でいち早く民泊予約サービスに参入したのは愛日租(Airizu)だった。2011年に米国から帰国した中国人がAirbnbを模倣して設立した。
サービス開始した翌年の2012年末には80都市をカバーし、総リスティング(物件情報)は8万を超えた。欧州のコピーキャット王と別称される、アレクザンダー、オリバー、マルクというSamwer三兄弟が愛日租に出資して話題となった。しかし、Samwer三兄弟が資金提供を中止したことで資金不足に陥り、2013年には閉鎖した。Airbnbをコピーしただけのサービスは中国人には馴染めなかったことが主要因だとされている。

●途家網(トゥージア)が中国では急伸

 中国でAirbnbを阻んでいる最大の競合相手が途家網(トゥージア)だ。途家網は、中国各都市の都心のマンションではなく、郊外の”別墅”と呼ばれる一戸建ての別荘などを中心に扱っているのが特徴だ。これは団体で旅行することの多い中国人の志向をくみ取ったものだ。また、物件主が個々で登録するのではなく、不動産会社と提携し勢力を拡大している。他の競合サイトと比較すると、特に中国国内の物件に強い。
 途家網は2011年に設立。中国の実情にそって、B2C+O2Oの経営を注力してきた。宿泊者数を確保するため、政府機関や不動産企業、旅行サイト、空港運営会社などと連携し、民泊とホテルの両方に力を入れている。
 2016年 8月13日には、1日の宿泊予約数が5万6000件を超え、過去最高となった。これは中国における競合他社に比べても過去最高の予約数だという。

途家網は、サイトに掲載した1万の物件を自社で管理して、Airbnbと差別化を図り、携程旅行網と手を組み、サービスの質を担保する。マンションデベロッパーのAscott(アスコット)とも提携して、アパートメントの取り扱いも着手している。
現在43万人以上の物件オーナーを抱え、中国本土の312地域と海外1000以上の地域を網羅している。ここ数年、年間成長率は300%以上を維持し、勢力を急伸させている。

●香港での利用者数ではAirbnbを上回る住百家(Zhubajia)
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 途家網を追う住百家(Zhubajia)は、2012年にSamwer兄弟が立ち上げた空室予約サイトのWimduがアジア市場から撤退するのを機に元役員らが新たに深センに設立。中国の若手エリートや富裕層を主なターゲットとして、部屋の品質や個人向けサービスの充実に重点を置いているのが特徴。香港での利用者数ではAirbnbを大きく上回っている。
住百家の部屋はサイトに掲載する前に、オンラインとオフラインで審査し、一定のクオリティを保証している。宿泊の手配だけでなく、送迎サービスや航空券予約、現地ガイド探しも手掛け、中国の海外旅行客向けに特化したサービスを提供する。24時間・年中無休のカスタマーサービスもしている。2016年4月に創業期の中小企業向け店頭市場の新三板市場に上場。空室予約関連企業として、中国初の上場企業となった。

 自在客(Zizaike)は中国上海を本拠に2011の設立。上海の健雲ネットインフォメーションテクノロジー有限公司が運営する「中国最大級のグローバルバケーションレンタルサイト」と銘打っている。スマートフォンアプリ「台湾民泊」を提供し、台湾を中心に空室予約手配事業を拡大している。物件の8割以上は台湾だが、日本、米国にも手を延ばしている。2015年は売上が2014年の倍以上となる約1億元を突破。他の競合企業に比べると、FIT(Free Individual Travel:個人手配の自由旅行)に強い。

 大魚(Fishtrip)は、中国北京に本拠を置く。ここも台湾と台湾人向け民泊紹介に力を入れている。中国大陸からのゲストを対象とする通行証代理申請サービスを提供。個人観光客向けの観光ルート提案で定評があり、団体客の勧誘と、ショッピングツアー、グルメツアーなどのテーマ旅行に力を入れている。日本にも力を入れてきており、日本30都市のリスティングは5000件を超え、特に京都が多くなっている。

このように中国には中国人の志向に合わせた個人間の空室予約サイトが多くあり、Airbnbの中国進出を阻んでいる。

 世界最大の市場となっている中国における、こうした企業の攻防戦は、日本企業にとっては対岸の火事のように見られがちだが、中国では必ずといっていいほど米国企業と対等に張り合えるコンペティター(競合相手)が現れるのは見習うべきことかもしれない。

●漁夫の利を得るのは誰か

 一方で、Airbnbも新たな市場開発を始めている。その一つが、Airbnb Japanによる休暇用リゾート物件の企業向け賃貸仲介事業だ。日本の都市部においては、ホテル税を回避しているとして、Airbnbサイトを通じた部屋貸しが規制されていることに対する措置だ。不動産管理会社が抱える物件をAirbnbサイトにリンクしやすくするソフトを開発し、賃貸業者が物件ごとに調整しなければならないスケジュール管理や価格設定といった作業を大幅に効率化させている。
 これまでは、Airbnb向けに空室のリスティング作成(物件登録)をする場合、IDとパスワードを入力する必要があった。その際、他の人に助けてもらったり、雇ったりする場合はその管理に不安があった。この問題を解決したのが補助ホスト機能だ。これにより、アカウントを相手に伝えなくても、ホスティング業務を手軽に分担して手伝ってもらうことが可能になった。
 さらに、Airbnb Japanは、2016年5月にカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)とパートナーシップ契約を締結し、日本国内におけるホームシェアリングサービスの普及と拡大を目指す。法的整備の促進にも協力して取り組んでいく。

インターネット経済は、従来の企業や制度ではできなかった隙間を埋めていくサービスが多くなる。好むと好まざるとにかかわらず、シェアリング経済は拡大していく。日本の法整備や対応が遅れてしまえば、その隙きを突いて、先行する海外企業が漁夫の利を得ることになる可能性は高いだろう。